首都直下型地震の発災時に考えるべき事について、今回は石油製品の供給について考えてみました。
調べてゆくとそれまでにあまり注目されて来なかった、かなり深刻なリスクが見えてきました。
単に石油製品の供給が止まるという直接的な影響に留まらず、罹災の有無に関わらず全国レベルで影響が爆発的に拡大する可能性があると考えた方がいいかも知れません。
首都圏直下型地震で何が起こるのか
まず、首都圏直下型地震で起きうる石油製品への影響としては、道路や交通網の断裂による給油所への配送の困難、送電網の停止や製油所の設備損壊による操業不能などがあります。
真に恐ろしいのはモノ不足よりパニック心理
当然ながらしばらくは供給が途絶するため、モノ不足となり給油所には大行列ができる事となりますが、問題は不安心理から来る不要不急の給油が増える点です。
そうするとモノ不足が長期化し、当初は冷静に静観している人にまで「手に入らなくなるかも」というパニック心理が伝播してゆくと考えられます。
そのパニックはやがて被災地域を超え、全国に報じられることで日本中に伝播してゆきます。
「次はこの地域にも地震が来るかも」
「とにかく常にガソリンは満タンにしておこう」
そうすると、被災地域以外でも製油所や配送網に被害がなくても、給油需要の増大により、徐々に品不足が顕在化してくる可能性があリます。
それがまたメディアで報じられたり、SNSでシェアされたりする事により、危機感は全国に拡大して行きます。
備蓄放出で大丈夫なのか?
政府や公的機関は、不安を鎮めるため「モノはあります。日本には官民併せて常時200日分以上の石油備蓄があります」とアナウンスしますが、この認識にも大きな落とし穴があると考えるべきではないかと思うのです。
対平時比での急激な需要の増大に対応できるのか
そもそも備蓄を考える際にその必要量の根拠となるのは「平時の需要」です。
非常時にはみんな車を常に満タンにしようと考えると思います。
そうすると全国でどのくらいの需要が発生するかを概算してみます。
全国の自家用車普及台数 6051万台(自動車検査登録情報協会 平成30年資料)うち、コレクション用などを除く稼働率を9割として約5400万台、被災の激しい首都圏地域の車両(給油不能)を1000万台すると4400万台。全国的なモノ不足の長期化とパニックの伝播により殆どの人が給油に走ると仮定。
平時の一台あたり残り燃料を平均6割と仮定し、これを満タンにする前提
軽も含めた乗用車の燃料タンク容量を平均で40リットルとすると、一台あたり16リットルの給油需要が発生
瞬間的に増加するガソリン、軽油の必要量は4400万台✕16リットルで70万4千キロリットル=442万7672バレルとなります。
日本の備蓄量は官民、産油国備蓄の製品換算量合計で7425万キロリットル(資源エネルギー庁石油精製備蓄課 令和3年11月資料より)なので余裕はありますが、後述する日本の日量原油精製能力(345万バレル)は上回る需要が短期に全国で発生する事になります。
そしてこれら以外に、警察消防等の官需、民間のバス、運輸、運送、ほか産業需要も加わります。
戦略備蓄も実はあまり役に立たない?
そこで備蓄を放出しよう、となりますがここで問題が出てきます。
それは、国家備蓄の大半と官民産油国分総備蓄量の76%が石油製品としてではなく、原油で備蓄されている点です(資源エネルギー庁資料より)。
つまり、製品備蓄を使い切れば残りはそのままでは使えないという事です。これをガソリンや灯油、軽油とするには精製をする必要があるのです。
重要なのは原油精製能力
ならば精製すればよい。となりますが、次に問題になるのは現在の日本の原油精製能力です。
石油連盟の2021年9月の資料によれば、日本の全製油所の精製能力は日量345万7800バレル。
製油所は21箇所ありますが、その分布を見ると精製能力の実に3分の1超、122万6000バレル分が東京湾沿いの7箇所に立地していることが分かります。
先の東日本大震災時においても市原の製油所が炎上してしまった様に、製油所の設備はどれだけ耐震化しても限界があります。
もし、首都圏直下型地震ともなればほぼ全ての製油所が停止してしまう可能性が高く、その瞬間に日本の原油精製能力の実に3割強が吹き飛ぶ事になるのです。
復旧のスピードにもよりますが、被災による需要減を考慮しても、残りの地域の製油所で負担するのは厳しいかもしれません。
また、これから冬を迎えるため石油製品(灯油)の消費量は増えていきます。そんな折に、もしこの様な事態が発生してしまったとしたら、とても恐ろしいことに成りかねないというのも懸念点です。
国防的側面からの懸念
そうなると、他地域からも製品を回すことになりますが、少ない石油製品は恐らく官需(警察、消防、救急、自衛隊ほか政府機関)と民間運送、物流に優先される事になるでしょう。それでも不足感はかなりあると想像できます。
特に全国的な燃料の不足は国防分野においても懸念となります。護衛艦も戦闘機も燃料が無ければ動かせません。
もちろん各基地や駐屯地にはそれなりの備蓄があるのでしょうが、長期化すれば日本を攻めたい存在から見れば格好の敵失となりかねません。
そういう側面からも、特に日本という国土状況においてはすぐ使える製品備蓄を増やした方がいいのではないでしょうか。
かつてのオイルショックやシーレーンの危機を考慮した供給途絶を前提とした原油重視による戦略備蓄も、そろそろ時代に即して見直してゆくべきかと思います。
私たちにできること
通常、食料や水は各々備蓄で対応できますが石油製品はなかなか難しいです。
灯油くらいなら出来ますが、ガソリンはりをしてくれない所も多く、また大規模被災時には家屋倒壊などで危険物となりかねません。
そうなると、もう極端な事を言えば「石油を使わない生活」の維持をしばらくは考えていく必要があると思います。
移動には自転車を用意しておくとか、暖房はあきらめ携帯カイロを使う。あるいは最近はカセットボンベを使用する簡易ストーブもある様です。
あるいは別のエネルギー源として蓄電池や燃料の要らない発電装置を準備しておく等も有効かと思います。
私はあまり知恵がないので、自転車くらいしか思いつきませんが、各々で真剣に考えていくべき事ではないでしょうか。
おわり
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考情報
https://www.paj.gr.jp/statis/statis/index.html”
石油連盟 統計情報 08製油所装置能力より
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl001/results.html#headline2”
資源エネルギー庁 原油備蓄課 石油備蓄の現況 10月より